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光学レンズ設計の基礎

レンズ設計におけるコストダウンの重要性

レンズ設計におけるコストダウンは、製品の競争力を高めるために極めて重要です。設計段階での工夫により、製造コストの大幅な削減が可能となります。製品のライフサイクル全体において、設計段階での決定が製造コストに大きな影響を与えます。
特に光学設計では、材料選定、光学素子の構成、製造プロセスなど、多岐にわたる要素がコストに直結します。そのため、設計段階での工夫が製品全体のコスト効率を左右します。

部品点数の削減と標準化

光学機器におけるコスト削減のためには、レンズや光学素子の数を最適化することが重要です。設計段階で、必要最小限の光学部品で要求性能を達成できるよう工夫することで、材料費だけでなく、組立工数や調整時間の削減にもつながります。

例えば、従来は複数のレンズを組み合わせて色収差を補正していた設計を、アポクロマートレンズや回折光学素子(DOE)を活用することで部品点数を削減できます。また、フィルターやプリズムを一体化したコンパクトな光学ユニットを導入することで、組立・調整工程の簡素化が可能になります。

さらに、標準化されたレンズや光学素子を活用することもコスト削減に有効です。カスタム設計の光学部品を使用すると、製造コストが大幅に増加しますが、既存の汎用レンズや市販の光学コンポーネントを活用することで、製造コストを抑えつつ、必要な性能を確保できます。特に、工業用カメラや測定機器などでは、既存の標準レンズをうまく活用することが一般的な手法となっています。

材料選定によるコスト最適化

光学設計において、材料選定はレンズやミラーの性能と製造コストを大きく左右する要素です。特に、ガラスやプラスチックなどの光学材料の選択は、製造コストだけでなく、耐久性や光学特性にも影響を与えます。

例えば、高屈折率ガラスや低分散ガラスは優れた光学特性を持ちますが、高価で加工が難しい場合があります。そのため、要求性能を満たす最適な材料を選定することで、コストを抑えつつ、性能を維持することが可能です。最近では、特定の用途に最適化された光学プラスチックレンズの活用が進んでおり、製造コストを抑えながら高精度な光学設計を実現できます。

さらに、AR(反射防止)コーティングや高耐久コーティングの選定もコスト最適化に重要です。適切なコーティングを施すことで、低価格な基材を使用しながらも高性能な光学特性を確保できます。

光学シミュレーションの実施

光学シミュレーションを活用することで、設計段階での問題点を早期に発見し、試作回数を削減できます。レンズ設計や光学機器開発におけるコスト削減と開発期間短縮に直結する重要なプロセスです。

例えば、回折や収差の補正を最適化するために、幾何光学シミュレーション(レイトレーシング)を活用すれば、試作前に理論的な性能評価が可能となります。また、波動光学シミュレーションを用いることで、干渉計やホログラフィなどの光学系の設計精度を向上させることができます。また、最近ではAIを組みこんだ光学シミュレーションもあり、設計の効率化が進んでいます。

モジュール設計の導入

光学機器の設計において、光学モジュールを使用することも、製造コストダウンにつながります。例えば、レンズやイメージセンサー、照明部を個別に設計・製造するのではなく、これらを一体化したモジュールとして設計することで、組立・調整工程を簡素化できます。

特にカメラレンズやプロジェクターなどの製品では、レンズモジュールの標準化が進んでいます。従来はカスタム設計のレンズが多く用いられていましたが、近年では既製品のレンズモジュールを流用することで、開発コストを抑えつつ、製品の性能を確保する手法が一般的になっています。

また、モジュール化によって再利用性を高めることも可能です。例えば、複数の製品に共通の光学エンジンを採用することで、開発の効率化とコスト削減を両立できます。レーザー加工機や医療機器向けの光学系では、共通のレンズユニットやビームコントロールモジュールを活用することで、部品の共通化・量産化によるコスト低減が実現できます。