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光学レンズ設計の基礎

VR・ARとレンズ設計

近年、急速に進化を遂げるVR・AR(仮想現実・拡張現実)技術は、エンターテインメントから産業利用まで、幅広い分野での応用が期待されています。VR・ARにおいて重要な要素が、ユーザーに没入感のある映像体験を提供するレンズ設計技術です。今回は、VR・AR機器におけるレンズ設計の重要性について詳しく解説します。

VR・AR機器の概要

VR・AR機器は、目の近くで映像を表示することで、まるで現実世界に入り込んだかのような没入感を生み出します。しかし、ディスプレイの映像が視野角いっぱいに拡大されるため、わずかなディスプレイの不具合も顕著に現れてしまいます。輝度や色の均一性、画素欠陥、線欠陥、曇り、画像位置などの問題は、ユーザー体験を大きく損なう要因となります。

そのため、VR・AR機器のレンズ設計は、ユーザー体験にとって非常に重要です。従来のディスプレイ測定用光学部品では、ヘッドマウントディスプレイ機器に必要な距離で視覚入力する人間の目の見え方を再現することは困難でした。しかし、近年では、輝度や色度を測定・解析するソフトウェアと組み合わせたシステムなどが登場したことで、レンズ設計後の試験・測定がより正確に行うことができるようになりました。

VR・ARで使用されるレンズ

VR・AR機器で使用されるレンズには、一般的な凸レンズだけでなく、フレネルレンズやパンケーキレンズなど、特殊なレンズが用いられます。

フレネルレンズは、薄くて軽く、材料費も抑えられるため、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)で広く利用されています。しかし、フレネルレンズには「ゴッドレイ」と呼ばれる光の回折現象による課題があります。この課題を軽減するために、レンズ中心部を通常のレンズ形状にし、周辺部をフレネルレンズにするなどのハイブリッドレンズ技術も開発されています。

一方、近年注目を集めているのがパンケーキレンズです。パンケーキレンズは、偏光レンズを用いて光路を折り返すことで、レンズとディスプレイの距離を短縮し、VRヘッドセットの薄型化に貢献します。フレネルレンズのゴッドレイ問題は発生しませんが、原理的に映像が暗くなったり、周辺が歪んだりする課題も存在します。

VR・ARにおけるレンズ設計

次にレンズ設計についてより詳しく解説していきます。VR・ARにおけるレンズ設計におけるポイントは複数ありますが、特に重要なポイントに絞って解説します。

瞳孔間距離(IPD

IPD(瞳孔間距離)は、左右の瞳孔の中心間距離を表し、個人によって大きく異なります。VR・AR機器において、IPD調整は快適な立体視を実現するための重要な要素です。IPDが適切に調整されていない場合、視覚疲労や不快感、立体視の歪みを引き起こす可能性があります。

最新のVR・AR機器では、ハードウェアまたはソフトウェアでIPDを調整する機能が搭載されています。レンズ設計においては、IPD調整機構を考慮した光学設計が求められます。例えば、レンズの位置を物理的に調整する機構や、画像処理によってIPDを補正するアルゴリズムなどを設計する必要があります。

視力補正とレンズ設計

VR・AR機器は、近視や遠視のユーザーにも快適に使用できるよう、視力補正機能が求められます。視力補正機能は、レンズ設計においても重要な要素となります。

レンズ交換式のVR・AR機器では、ユーザーの視力に合わせて交換可能なレンズを設計する必要があります。また、ピント調整式のVR・AR機器では、レンズとディスプレイの距離を調整する機構を設計する必要があります。

視野角とレンズ設計

視野角は、VR・AR体験における没入感を左右する重要な要素です。視野角が広いほど、より広い範囲の仮想世界を見ることができ、没入感が高まります。

しかし、視野角を広げると、歪みや周辺解像度の低下などの課題が生じます。レンズ設計においては、広視野角と高画質を両立させるための光学設計が求められます。例えば、非球面レンズや自由曲面レンズなどを用いることで、歪みを抑制しながら視野角を広げることが可能になります。