一般的な球面レンズが全方位に対して光の収束・発散を行うのに対し、シリンダーレンズは円筒状の形状を持ち、特定の軸方向に対してのみ光学的効果を発揮します。つまり、一方向にのみ曲率を持ち、それに直行する方向には曲率をもたない形状をしているため、光は一方向にのみ屈折します。
この独特な性質により、シリンダーレンズはレーザー光を線状に変換したり、ラインセンサーへの集光、画像のアスペクト比変更をしたりなど、特定の方向にのみ光の制御が必要な場面で活用されています。
レンズの曲面を通過する際、光はその進行方向を変化させます。凸型のシリンダーレンズは入射した光を一点に集束させ、凹型のレンズは光を拡散させます。この集束・拡散の度合いは、レンズの曲率と焦点距離によって決定されます。シリンダーレンズの特異性は、この屈折効果が特定の軸方向にのみ生じる点にあります。円筒状の曲面は、その軸に垂直な方向に対してのみレンズとしての機能を持ちます。
このため、シリンダーレンズを通過した光は、線状に集束または拡散され、平面状の光を作り出します。焦点距離は、シリンダーレンズの曲率半径と屈折率によって決まります。
シリンダーレンズには、用途に応じて様々な種類が存在します。最も基本的なものは、平凸シリンダーレンズと平凹シリンダーレンズです。
平凸シリンダーレンズは、片面が平らで反対面が凸状に湾曲しており、光を集束させて線状の焦点を形成するために使用されます。レーザー加工において、レーザー光を線状に集光し、材料を切断・加工する際に不可欠なレンズです。
一方、平凹シリンダーレンズは、片面が平らで反対面が凹状に湾曲しており、入射光を拡散させる効果があります。ビーム拡散器として使用され、光の広がりを調整する際に利用されます。
シリンダーレンズは、特定の方向にのみ光を制御できるという点で、他の光学レンズにはない独自のメリットを持っています。レーザー加工においては、効率的なライン照射を実現し、加工速度や精度を向上させることができます。また、光学系設計において、光の配向や形状を自在に操ることができ、システム全体の小型化や高性能化に貢献します。
しかしながら、シリンダーレンズにはいくつかのデメリットも存在します。まず、球面収差が発生しやすい点が挙げられます。これは、レンズの形状に起因する光の歪みであり、特に大きな開口数を持つレンズにおいて顕著になります。また、精密な加工が必要となるため、製造コストが高くなる傾向があります。さらに、シリンダーレンズの軸合わせは高度な技術を要し、光軸のわずかなズレがシステム全体の性能に大きな影響を与える可能性があります。上記に対応するため、非球面シリンドリカルレンズや両面に曲率を持ったシリンドリカルレンズなど特殊なシリンドリカルレンズも検討する必要があります
これらのメリット・デメリットを理解し、適切なシリンダーレンズを選定し、適切に光学システムに組み込むことが重要です。
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